📚ハドリアヌス帝の回想15ー エレウシスの秘儀

ハドリアヌス帝はたびたび伝統的宗教に接し、その理論・哲学にはかなりの興味を抱いていたと思われます。パルティアにオスロエス一世を訪問した際は、インド人のバラモンが生きながら身を焼きほろぼす儀式に立会い、神または神なるものに思考を重ねつつ、やがてギリシアのエレウシスで入信の秘儀を受けました。そのときの霊的衝撃を語っています。

不協和音が協和音に解決してゆくのをわたしは聞いたのだった。一瞬、別世界に立って、遠くからしかしまたごく近くから、わたしが参加している神的な人類の行列をながめ、まだ苦悩はあるが誤りのなくなったこの世界をながめたのだった。人間の運命という、どんなに世間知らずな目から見ても過誤に満ちたこの曖昧な設計図が、天上の構図のようにきらめいていたのである。
J'avais entendu les dissonances se résoudre en accord; j'avais pour un instant pris appui de tout près, cette procession humaine et divine où j'avais ma place, ce monde où la douleur existeencore, mais non plus l'erreur. Le sort humain, ce vague tracé dans lequel l'oeil le moins exercé reconnaît tant de fautes, scintillant comme les dessins du ciel.

Marguerite Yourcenar, Mémoires d’Hadrien(『ハドリアヌス帝の回想』 多田智満子訳) 

 エレウシスの秘儀は、古代ギリシアのエレウシスに始まり、紀元前15世紀のミュケナイ期から古代ローマの時代まで伝わったもので、その基盤は豊穣神デーメーテール、農業崇拝にあるようです。ただし秘儀の内容は口外してはならないものとのことで、古代ギリシアに作られた『ホメーロス風讃歌』(作者不詳)の「デーメーテール讃歌」などが基本的な参考情報となっています。 

 

ハドリアヌス帝の回想

ハドリアヌス帝の回想

 
Memoires d'Hadrien/Carnets de notes de memoires d'Hadrien

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